第12話 真言の書 ΔS≤0

エフィアの実家のパン屋で、ぬるリンψが「真言の書」と呼ばれる古い本のスキャンと解析を開始した。
高性能スキャナーで全ページを記録し、AI解析システムで言語パターンを調べている。
言葉は現代のどの国の言語とも一致しないが、数式や図式に見覚えのあるものが含まれている。
特に物理学の法則に関する記述が多く、エフィアの空間魔法と何らかの関係がありそうだ。
解析結果を待つ間、一行はパン屋の暖かい雰囲気の中で焼きたてのパンを味わっていた。


ぬるリンψの解析により、本のタイトルが判明した。
「***における、エントロピー消失の***の法則」
***の部分は解読できないが、「エントロピー消失」という言葉は明確に読み取れた。
YUKIは興味深そうに本のページをめくりながら、数式の部分を詳しく調べている。
通常、エントロピーは増大する一方だが、この本では「消失」について記述されているようだ。
エフィアの空間魔法が真空状態を作り出すのも、エントロピー消失と関連しているのかもしれない。


エフィアの両親から聞いた話では、その本をくれたのは謎めいた人物だった。
今から十数年前、その人はクバヨランの村の宿屋に1年ほど滞在していた。
毎日のようにエフィアの家のパン屋を訪れ、決まってパラコガーリックパンとコーヒーを注文した。
小さなエフィアを大層かわいがってくれて、よく一緒に本を読んでくれたという。
年末、その人は別れの挨拶として幼いエフィアに一冊の本をプレゼントした。
「いつもありがとう、これはきっと精霊さんと仲良しになれる本だよ」と言い残して。
そして年明けと共に、何人かの仲間と一緒にイストリア大陸の中心都市へと旅立っていった。
それ以来、その人の消息は途絶えているという。

第1章 完

knowledge of マメ

エントロピーと熱力学第二法則
エントロピーとは:
• 系の「乱雑さ」や「無秩序さ」を表す物理量(記号:S)
• 温度が高いほど、分子の運動が激しくエントロピーが高い
• 固体<液体<気体の順でエントロピーが増大する
熱力学第二法則:
• 「孤立系のエントロピーは時間とともに増大する」(ΔS≥0)
• 自然現象では必ずエントロピーが増加する方向に進む
• 例:熱いコーヒーは冷める(熱エネルギーが拡散)、割れたガラスは元に戻らない
エントロピー消失の意味:
• 通常の物理法則では起こりえない現象(ΔS<0)
• 乱雑な状態から秩序だった状態への変化
• もしこれが可能なら、時間を巻き戻すような現象が起こる

エフィアの空間魔法が「エントロピー消失」を起こしているとすれば、物理法則を超越した現象を引き起こしていることになる!

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