番外編① エントロピーって何?~混ぜる、散らす、戻らない~
第12話で「エントロピー消失」という言葉が出てきた。
YUKIは「エントロピー」という概念をKENZOとエフィアにもっとわかりやすく説明したいと考えた。
特にエフィアの魔法がエントロピーを減少させているのなら、それは物理学的に驚異的な現象だ。
「理論だけじゃわからない。実際に見せてくれよ」KENZOがいつものように言った。
YUKIは微笑んで、ぬるリンψから実験道具を取り出した。
「いいわ。じゃあ、身近な例で説明してあげる」
牛乳が水中に広がっていく様子を三人は静かに観察していた。
最初は一滴の牛乳が、時間とともに水全体に均一に拡散していく。
この現象は不可逆的だ。一度混ざった牛乳と水を元の状態に戻すことは極めて困難。
「これがエントロピー増大の法則」YUKIが説明を続けた。
「自然界では、混ざり合うと、粒子は拡散へと向かう、乱雑さの度合いが増えるイメージね」
KENZOは真剣な表情で水を見つめている。何かを理解しようとしているようだ。
凍った牛乳の例えで、エフィアも理解が深まったようだ。
「つまり、自然に任せれば物事はどんどん乱雑になっていくってこと?」エフィアが確認した。
「そうねこの場合は、局所的にエントロピーを減らしても、全体としては増えたりするの」
KENZOが口を開いた。「じゃあ、エフィアの結界とかの魔法はどうなんだ?」
「それが問題なのよ」YUKIが真剣な表情になった。「エフィアの魔法は、エネルギーを他に移さずにエントロピーを減らしているように見える」
エフィアが手を伸ばし、先ほどの牛乳と水の入ったコップに向けて魔法を発動した。
空間魔法の淡い光がコップを包み込む。
次の瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。
均一に混ざっていたはずの牛乳が、ゆっくりと一箇所に集まり始めたのだ。
まるで時間を巻き戻すように、牛乳の粒子が集結していく。
数秒後、コップの底には白い物体のかけらと、透明な水が完全に分離された状態で存在していた。
KENZOとYUKIは言葉を失った。
YUKIはぬるリンψに測定データを記録させていた。
温度、圧力、湿度、あらゆるパラメータを確認したが、周囲への熱放出は観測されなかった。
通常、エントロピーを局所的に減らすには、その分のエネルギーを他の場所に移す必要がある。
例えば冷蔵庫は中を冷やす代わりに、外に熱を放出する。
しかし、エフィアの魔法ではそのような熱の移動が観測されない。
(これは...本当にエントロピーを消失させている)
ぬるリンの計測モニターには、そのように記録されていた